やっぱりあった16コアRyzen。E3会場にてさらなるリリースが
COMPUTEXにてAMDから12コア24スレッド対応のCPU、Ryzen 9 3900Xが発表されました。合わせてかなり詳細な内部構造も公表されましたが、その中身を見て「なぜ16コア製品がないのか?」という疑問がメディアから投げかけられたのも自然な流れと言えました。
これに対する回答がAMD自身からE3で行なわれた形になります。16コア32スレッド対応のCPU、Ryzen 9 3950Xの市場投入が発表されたのです。
今回はこの新SKUも含め、より詳細に中身が見えるようになった第3世代のRyzenシリーズを取り上げます。
勢いがある今のAMD
RyzenシリーズのCPUが特に自作市場で大きな存在感を示すようになり、インテルCPU供給の不足もあってメーカー製パソコン市場にもかなり食い込みだしています。
そういった勢いと実際の業績の好調さを受けてAMDが攻勢を強めています。
さらに次世代のPlayStation、XboxがAMDのIPを心臓部に採用することが発表されて、AMDの勢いがさらに上がっている感じです。
ハイエンドのゲームコンソールであるPlayStationとXboxは、現行世代でもAMDのCPUコアとGPUコアを使ったカスタム設計の統合CPUを採用しています。
この流れを引き継ぐカタチで次世代機には、Zen 2アーキテクチャのCPUコア、RDNAアーキテクチャ採用のGPUコアを採用して、恐らく両者を統合したカスタムCPUを搭載する形になると思われます。
ゲームコンソールだけでかなりの台数を期待できる上に、ゲームの標準プラットフォームがAMDアーキテクチャのハードウェアになることで、ゲームソフトの制作側がAMDのCPUやGPUに最適化したタイトルを作る機会が増える可能性が高まります。
今のハイエンドゲームはゲームコンソールの性能向上によって、PCゲームとコンシューマーゲーム機向けタイトルがほぼ同じ中身でリリースされるケースが増えました。
数が出やすいコンシューマーゲーム機をメインターゲットに据えたタイトルの開発を行なうならば、PC向けに「焼き直した」ゲームタイトルもAMDのハードウェア最適化が進んだソフトが増える可能性が高くなります。
この流れをさらに強くPC市場に持ち込みたいのがAMDの意向でしょう。
16コアRyzen発表
そんな流れの中で発表された第3世代のRyzenには、当初16コアCPUがありませんでした。
第3世代のRyzenは「チップレットアーキテクチャ」を採用していて、CPUパッケージの中に純粋なCPUコアのダイとI/Oコアのダイを別々に搭載して、高速な内部インタフェースで接続するカタチを取っています。
これによりかなり柔軟にCPUコア数の増減が出来るようになっています。
COMPUTEXで発表された当時のハイエンドRyzenは2つのCPUダイを搭載しながら、合計4つのコアが無効化された12コア24スレッド対応のCPUになっていました。
ここから冒頭にも書いた疑問が生まれていたわけです。「なぜ16コアCPUがないの?」という。
それに対する回答が少し遅れてE3会場にて明らかにされたカタチですね。
多くの関係者が予想していたとおり16コアのRyzen、Ryzen 9 3950Xが発表されました。
TDPは105Wのまま
Ryzen 9 3950XのTDPは下位機種と同様に105Wで抑えられています。稼働するコア数が増えているにもかかわらずTDP枠が広がらなかったと言うことは、このCPUのCPUダイではより低電圧で高クロックまで動作可能な「選別品」だけが使われると言うことを意味していそうです。
実際他の第3世代のRyzenシリーズよりもRyzen 9 3950Xだけ市場投入タイミングが遅く、価格面でもプレミアが設定されているあたりからもそのあたりの事情が垣間見えます。
ゲームへの高い親和性をアピールしたい?
インテルは第10世代のCoreプロセッサをノートPC、タブレットPC向けの低消費電力製品から市場投入します。実のところハイパワーなデスクトップ向けCPUに関しては、第10世代のCoreプロセッサはまだ全く情報がなく不透明なままです。
これはメーカー製のコンプリートPC市場ではユーザーのニーズが完全にノート型メインに移行してしまっていることを反映したものだと思います。
それに対して今のAMDのCPUは完全にデスクトップPCをメインに据えている感じです。モバイル向けのRyzenシリーズは十分な性能を備えているはずですが、SKUの数などは薄め。第3世代のRyzenも当初はデスクトップ向けのみがリリースされるようです。
今、ハイパワーなデスクトップパソコンを求めるユーザーのかなりの割合はハイエンドなゲームを遊ぶユーザー層ですから、AMDがそちらへの訴求を強める戦略をとるのも整合性が取れています。
第3世代のRyzenシリーズがPCI-ExpressのGen4対応をしていることを訴える部分でも、まずはグラフィック性能の向上が狙える部分を強くアピールするあたりにもそういった雰囲気が見えます。
また第3世代のRyzenシリーズが搭載する巨大な容量の3次キャッシュに関しても、わざわざゲームでの性能を強調する形にする所にもその意図が見える感じです。
既存機種でもRyzenシリーズは高効率で高い性能を発揮できるCPUとして認知はされているものの、ゲーム用としては最高の評価は得られていない部分を払拭したい意図がAMDにはありそうです。
最新の重量級ゲームタイトルは積極的にマルチスレッドで動いて多数のコアを使い切れる仕組みになりつつありますが、Ryzenがゲーム用で最高の評価に結びついていないのはシングルスレッドの絶対性能でインテルのCoreプロセッサに及ばない部分があるからかもしれません。
7nmプロセスに移行する第3世代のRyzenシリーズでも動作クロックはまだ14nm世代のCoreプロセッサに負けています。この部分がゲーム用途での評価が高まりきらない一因の気がします。
IPCの改善でどこまでCoreプロセッサのシングルスレッド性能に迫れるか、あるいは凌駕できるかが新しいRyzenシリーズの生命線になるのかもしれません。