7nmプロセスで製造される第3世代のRyzenは2019年夏に市場投入予定
ここしばらくのパソコン向けのCPUの動きはAMDがRyzenシリーズを開発、市場に投入して以降大きく変化しました。
ほぼ時を同じくするような形でインテルが新製造プロセスの10nm世代のチップ開発に大きく手間取ったことも重なって、恐らくPentium4時代、Athron64世代以来久々のAMDの攻勢が続いている感じです。
この流れは高性能サーバー向けCPUにも影響を及ぼしそうな雰囲気があります。1ソケットあたりのコア数や実処理性能、電力効率でAMDがインテルCPUに大して大攻勢をかけている形です。
その勢いに乗ってAMDが更なる製品を今年市場投入しそうです。7nmプロセスで製造され、改良版のマイクロアーキテクチャであるZen2を採用し、恐らく世界で初めてPCI-Express 4.0に対応する製品となる第3世代のRyzenシリーズです。
マイクロアーキテクチャはZenの改良版
RyzenシリーズのCPUの設計、マイクロアーキテクチャはZenと呼ばれていますが、第3世代のRyzenシリーズは改良版のZen 2アーキテクチャを採用します。
基本的な内部構成に大きな違いはなさそうですが、細かな改良で更なるIPCの向上を図る工夫が行なわれています。
また、第2世代までのRyzenシリーズで性能上の弱点だったベクトル演算命令AVXに対応する演算ユニットが128bitから256bit長に拡張されます。これにより単純にAVX256命令の実行速度が2倍になります。
新しい動画エンコードソフトなどはAVX命令をフル活用して動画の処理性能を上げる工夫をしていますので、AVX命令の実行速度でCoreプロセッサに及ばない第2世代までのRyzenシリーズはこの部分でポジションが微妙に揺らぐケースもありました。
Ryzenシリーズはマルチスレッド対応でCPUに大きな負荷をかけるソフトへの対応が得意ですが、そういったソフトの代表格の一つ、動画編集ソフトのエンコード性能でどうしてもインテルCPUに及ばない部分が出てしまっていたからです。
その穴の一つは第3世代のRyzenシリーズで埋められることになりそうです。
ただ、インテルがさらに拡張を行なったAVX512命令の対応は難しい設計になるようで見送られています。
PCI-Express 4.0対応
メジャーな製品で、との括りを付けなくても、恐らく第3世代のRyzenシリーズが世界で初めてPCI-Express 4.0をサポートするCPUになりそうです。
転送速度は3.0世代の倍になりますので、拡張カードやその他の周辺機器とのやりとりが高速化してパソコンやサーバーの足回りが強化されることになります。
最近のパソコンではビデオカードよりも超高速なSSD、NVMeタイプの製品でより高い転送速度が求められている形です。M.2スロットがPCI-Express x4での接続となっていますが、既にバス側の転送速度の上限まで使い切る製品が登場しています。
今後PCI-Express 4.0が使える環境が普及すればより高いスペックを持つSSDが使えるようになります。
ただ一般的な使い方の範囲では、実際の使い勝手という面では既に飽和している感もあって、更なる良さを体感するのは難しいかもしれません。
データセンターで使うサーバーや一部非常に高いディスクの転送速度が必要なジャンルでは、どれだけ速いSSDがあっても使い切ってしまえる環境もありますので、そういった部分の基盤となるPCI-Expressはどれだけ高速化しても困らないのもまた事実です。
既存マザーボードと互換性あり
第3世代のRyzenシリーズは既存のマザーボードと互換性があるのも特徴の一つです。
パソコンのアップグレードを行なう際にCPUだけの交換でも対応できて、アップグレードの予算を小さく抑えることも出来ます。
ただしこの場合には、PCI-Express 4.0の機能は使えないようです。マザーボード側が3.0までの対応ならそこまでの転送速度しか出せません。
電力効率は高いが意外と性能差は小さい?
インテル側にまだそこまで高い性能を発揮するCoreプロセッサがないせいなのか、性能差という点では第3世代のRyzenシリーズはそこまで高いものを実現している訳ではなさそうです。
動作クロックが分りませんが、8コアのハイエンドプロセッサでは、現行のCoreプロセッサの最上位機種Core i9-9900Kをわずかに超える程度のようです。
その代わり消費電力は大幅に低く、電力効率の面では第3世代のRyzenの大勝利、的なイメージになっています。
比較対象となる実製品がないので仕方がないとは思いますが、本当は第3世代Ryzenの真のライバルは10nm世代のインテルの新CPUだと思います。そういう面を考えるともっと性能面を欲張っても良かった気もします。
こういったジャンルのCPUを使うユーザーはぶっちゃけあまり消費電力面を気にしたりはしませんから。
第3世代のRyzenを製造する7nmプロセスが、実はまだあまり動作クロックを上げられない、といった内部事情もあるのかもしれません。