ひっそりリリースされていた10nm世代Coreプロセッサ
実は今年5月頃、インテルから特段のアナウンスもないまま、まさにひっそりと10nm世代のCoreプロセッサがリリースされていました。
型番はCore i3-8121U。モデルナンバーから分かるとおり、第8世代のCoreプロセッサの一つとして扱われています。
何故このCPUが「ひっそり」出荷されるようになったのか、そのあたりの事情も含めてまとめてみます。
GPUが無効化されている
いつの間にかリリースされたインテル初の10nm世代のCPU Core i3-8121Uですが、このチップ実は統合GPUが無効化されていて珍しく純粋なCPUのみの形で出荷されています。
いわゆるUプロセッサでTDP枠は15Wありますが、統合GPUに消費電力・発熱枠を持って行かれない分、実CPU性能は結構高い動作をしてくれるかもしれません。
そのような条件の中でも、2コア4スレッド対応で定格クロックは2.2GHz、ブースト時の最大動作クロックも3.2GHzに留まっていて、特性自体はむしろ14nm世代のCPUの方がずっといいような形です。
まだまだ10nm世代の製造プロセスが熟成していないことの表れと考えて良さそうです。
そしてこのCPUの最大の問題点と言えそうな部分は、チップ上作り込まれているはずの統合GPUが無効化されているところです。
さすがのインテルでも大苦戦する新製造プロセス
インテルは独自の半導体製造工場を持っています。今は半導体製造のコストが非常に高くなっていますので、自前で工場を持ちつつパソコンやサーバー向けの複雑なCPUを設計・製造できるのはインテルぐらいの巨大な企業でなければかなり難しくなっています。
そしてインテルは他の半導体製造専用の企業とはちょっと違うアプローチで動いています。インテルが言うところのトライゲートトランジスタ、FinFETもインテルの発明でした。
そして今まで半導体の製造においてインテルは非常に高い技術を見せつける形で他社よりも数歩リードし続けてきましたが、製造プロセスの微細化が進む中でさしものインテルも新プロセスの立ち上げに非常に苦労する状況が続いています。
そして次のプロセス10nmでも大苦戦が続いていて、それのかなり明らかな証拠の一つがCore i3-8121Uと言えるような状況です。
10nmプロセスのCoreプロセッサではCPU側ではなくどうも統合されているGPU側で問題が出ているようで、そこがなかなか解決できないことが10nm世代のCoreプロセッサの市場への本格投入の足かせとなっているようなのです。
内部の細かな事情までは見えませんが、出来てしまったチップ(?)を何とかしようとしたのがCore i3-8121Uなのかもしれません。GPU部がうまく動いてくれないなら、GPUを無効化してしまえ、と。
数字上はリードを許したインテル
インテルの10nm世代の製造プロセスの遅延によって、TSMCやサムスンなど他の半導体製造メーカーの製造プロセスが数字上インテルより先を行くことになりました。
多分、ここ数十年の半導体製造の流れの中では初めてのことかもしれません。
ただ、ちょっと注意しないといけないのは、インテルとその他の半導体製造メーカーとの間や、インテル以外の半導体製造メーカー同士の中でも、同じ数字の製造プロセスでも実際に作られるトランジスタのサイズが全然違ってしまっている、ということです。
インテル以外の10nmの製造プロセスで作れるトランジスタのサイズは、インテルの14nmより少し小さいぐらい。7nmの最初の製造プロセスで作れるトランジスタは、インテルの10nmプロセスのものと同じぐらい、と言ったイメージです。
製造プロセスの世代を表す「~nm」の数字は、既にほぼマーケティング戦略上の意味しかなくなりつつあります。GLOBALFOUNDRIESでは製造プロセス自体は縮小していない改良版プロセスにより小さな別の数字を付けていたりもしますから。
ですので製造プロセスの数字が小さくなるのは、同じ半導体製造メーカー内での製造プロセスの進化の比較にしか使えなくなりつつあります。各メーカー横並びでのプロセスの比較はかなり難しくなってきました。