遂に発売になったAMDの新CPU、Ryzen 7

 

AMDが開発を続けてきた話題のCPUの新マイクロアーキテクチャZENを採用するCPUが、ほぼ予定通りに市場に投入されました。それがRyzen 7シリーズです。

まずは8コア16スレッド対応のハイエンド機種から登場する形になりました。今まで対抗のなかったインテルのCoreプロセッサCore i7-6900番台に真っ向から勝負を挑む形になります。

今回はついに市場に登場したAMDのRyzen 7シリーズを取り上げます。

速い・安い

Ryzen 7シリーズは8コア16スレッド対応の高スペックを実現しながら、インテルの対抗製品に比べ非常に安価な価格で世に出ています。

高性能版の8コア製品で見ると、インテル製品の半額近い価格破壊的なプライスタグを実現してきました。

ローエンド製品ではTDP 65Wの枠の中で8コア16スレッド対応製品を実現し、価格面ではインテルの4コア8スレッド版Core i7のハイエンド機種と並ぶかより安い価格を実現しています。

ことCPU性能に関しては非常に大きなインパクトを持つ製品になりました。

IPCでは最新のインテルプロセッサに及ばないが

内部の構成などから予想できた通り、クロック当たりの性能の指標となるIPC値では、Ryzen 7は第5世代のCoreプロセッサと同レベルまで一気に性能を引き上げてきたようです。

ただ、厳密にみると最新のCoreプロセッサである第7世代機には若干IPCは及ばないようです。

ですが、基本動作クロックが高めのため、Coreプロセッサの6900番台を上回るシングルスレッド性能、マルチスレッド性能を実現できるCPUになっています。

CPU性能依存のタスクをたくさん日常的に動かす必要があるユーザにとっては、非常に高い性能を比較的安価に実現可能になる、とても良い選択肢が生まれてきた、といえると思います。

総合的にみると

ですがいろいろな面を総合的にみてみると、Ryzen 7万歳!で済むかどうかは若干微妙な部分も残すかもしれません。

まずその要素の一つはRyzen 7シリーズには統合GPUが搭載されない部分です。

CPU単体は安上がりになるものの、外部ビデオカードが必要になる分、システム価格は若干上がります。ただ、この部分はインテルのCore i7-6900番台を使う場合でも同じ条件ですね。

CPUのマルチスレッド性能がそこまで必要ではない場合、たとえば4コアCPUでも十分以上、といった程度の作業に対しては、今のRyzen 7ではCPU性能がかなりオーバースペックになってしまう可能性はあります。

8コア16スレッド対応の高性能CPUが必要なタスクは、ソフトウェアエンコードでの動画作成や、デジタルカメラの高解像度画像のRAW形式からの現像作業、あとは、ごく一部のハイエンドゲーム程度でしょうか。

Ryzen 7の性能を生かし切れるシチュエーションは意外と限られている、ということです。

一般的なゲームで要求されるシングルスレッド性能でいえば、インテルの第7世代CoreプロセッサはそもそもIPC値がRyzen 7を上回りますし、動作クロックでRyzen 7を上回るCPUも何製品か存在しています。

また一番大きいところは、そもそもほとんどすべてのユーザーがそんなに高性能なPCを必要としていません。

おそらくユーザーの8割以上の人たちがPCでやりたいことは、デュアルコアのCoreプロセッサでもオーバースペックなぐらいタスクのはずですから。

この辺りで実はRyzen 7のポジショニングはちょっと難しいところもあるともいえるのです。今、Ryzen 7シリーズが主に訴求できるユーザーは、いわゆるPCの「エンスージアスト」と呼ばれるタイプの人たちにほぼ限定されてしまうでしょう。

ハイエンドCPUの選択肢が増えることは歓迎

そういったポジショニングの難しさはあるものの、やはりCPUの選択肢が増えるのはPC業界にとってはいいことです。インテルCPUが安泰すぎてCPUの性能・機能の改善ペースが落ちていた部分もあるでしょうし。

8コアのハイエンドCPUをより一般に広げられる可能性ができたことは素直に評価したいところです。

更なるハードウェアの性能の上乗せがあれば、今後よりそれらを使い切るだけのソフトウェアが生まれてくるかもしれません。

AMDならではの難かしさも

内容的には素晴らしいRyzen 7ですが、AMDはやはり企業の規模ではインテルにはまったく敵いません。ですので、インテルのようにいろいろなCPUコアを作り分けられるだけの企業体力が少なくとも今のところはありません

今後、Ryzenシリーズには4コアや6コア製品が出荷される予定がありますが、これらの製品は8コアのダイの一部のコアを無効にした形での出荷になるようです。

別設計の4コアCPUをすぐに作るだけの体力が、今のAMDには残念ながらないのです。

その代りこの方法を使うと、CPUダイの一部に欠陥があって8コアCPUとして販売できないダイも、4コアや6コア製品としてリサイクル、的な使い方ができるようになる可能性があります。トータルでの歩留まりを上げることができるわけです。

ただ、今のパソコンのトレンドを考えれば、一般ユーザー向けPCのCPUはGPU統合型が主戦場です。この先、統合GPUを搭載した、AMDのいうところのAPUも設計・製造されるはずです。

Ryzenシリーズのセールス面での本番はそのGPU統合型のチップが世に出てから、と考えた方が良いでしょう。