ARM版Windows 10登場へ。Win32アプリも動作
先日、中国で開催されたマイクロソフトの技術者向けイベントで、スマートフォンなどで使われているCPUのARMアーキテクチャ向けに「フル機能版」のWindows 10がリリースされることが発表され大きな話題となりました。
今、動いているARMのCPU向けのWindows 10は、スマートフォン向けに機能をシェイプアップしたWindows 10 Mobileのみ。
かつてやはり若干機能の制限をかけた形のWindows RTというバージョンが存在したこともありましたが、2017年に登場するというものは今度こそフル機能の完全なWindows 10になるということです。
今回はこのニュースについて少し詳しく掘り下げてみます。
既にデモ機が動作
上に書いたイベントの基調講演では、現存するARMアーキテクチャのスマートフォン向けSoCのハイエンド、Snapdragon 821を使った2in1タイプのパソコンでWindows 10が既に実際に動作しているところがデモされました。
色々な機能が既にほぼ完全な形で問題なく動作していたようです。
数週間前あたりから、次期SnapdragonにはインテルCPUの機械語をエミュレート実行する機能が追加されて、Windows 10 MobileスマホでWindowsのデスクトップアプリが動作するようになるのではないか、といった噂が流れていました。
どうやらマイクロソフトは、この噂の予想をはるかに超えるレベルでWindows 10の世界を広げる動きに出たようです。
「Win32」アプリも動作
ARMアーキテクチャのSoCを使う場合、Windows 10 Mobileと同じような問題点にぶつかります。膨大なソフトウェア資産のある、従来のWindowsの各種アプリが全く使えない、ということです。
これにマイクロソフトは、インテルCPUの機械語を翻訳しながら実行するエミュレータの仕組みを組み込むことで対処しようとしているようです。
既にある程度の動作が確認されているようで、Win32アプリの代表であるAdobe社のPhotoshopが動いているところもデモが行われたそうです。
ただ現実的にはWin32アプリが動作しても性能面での不安はつきまといます。
CPUの動作のエミューレータはやはりどうしても性能へのインパクトが大きく、純粋な性能面ではネイティブなアプリを実行する場合の数分の一以下の性能しか出ないケースがほとんどです。
このため、純粋にCPUだけで計算をし続けるようなアプリは、かなり厳しい使い勝手になる可能性があります。
その代わりほとんどのアプリでは、純粋にプログラム側だけですべてを処理をしてしまうなんてことは少なく、画面の描画やファイルの扱い、その他たくさんの処理はWindowsが用意しているサブルーチンを呼び出す形で作業を行います。
この場合、呼び出されたWindows側のサブルーチンはARMアーキテクチャのCPU向けの機械語で出来上がっていますから、その処理の部分に関してはフルスピードで動作することが出来ます。
ですのでアプリの作りによっては、体感上の速度はそれほど悪い感触にならない可能性もありそうです。
マイクロソフトは64bit版のWindows上で32bitアプリ(=Win32アプリ)を動かすための仕組み「WoW64」の経験がありますから、ARMアーキテクチャのWindows 10でも上手い作り込みをしてくることも期待できます。
目指すのは常時ネット接続のWindows 10パソコン?
マイクロソフトはWindowsの仕組みの中に、OSがスリープ時にもネットと常時接続しておいて、メールなどの着信をチェックするような仕掛けを組み込んできました。
ユーザーが使う際にもパソコンがスリープから抜けたときには既にネットがつながっている、そういう使い勝手上のメリットも実現しようとしています。
クアルコムのSnapdragonシリーズを使ったWindowsパソコンが出来上がると、LANのない環境においてもいつネットにつながっているパソコンが実現できる可能性が高くなります。
また、Snapdragonシリーズはスマートフォンのサイズの中に組み込むことをはじめから考えているチップですから、スマートフォンサイズのフルセットWindows 10機が登場する可能性も十分にあります。
いろいろと夢が広がりそうなニュースです。
ただ、立場が微妙になりそうなのがWindows 10 Mobileです。スマートフォンでもフル機能版Windows 10が動くようになってしまったら、さすがに出番がなくなりそうです。
そのあたりも気になるところではあります。